蝶は金魚と恋をする
Side 凪
あまりの馬鹿騒ぎに頭にきて、男湯の暖簾をばさりとくぐる。
「いい加減にしろーーー!!」
私の怒号で騒がしかった脱衣所が静まった。
酒乱としか言えないような状況で、真っ裸な人もいれば、タオルを巻いた人、とりあえず下は穿いている人などさまざまで。
みんなに共通する事と言えばかなり出来上がって顔が赤い事だ。
しかし、ケロリとしてる2人の影をその中に見つける。
お祖父ちゃんと一琉だ。
「凪~、こいつすげぇな。どんだけ飲ませてもケロリとしやがる」
「あはは、俺お酒強いから~。酒と女には飲まれません。あっ、凪は別~」
愛してる~。と投げキッス付きでバカを言う一琉にまわりのジジイ連中が、おぉ~とか、冷やかしの声をあげてくる。
バカばっか。
頭を抱えながら気を取り直すと、大きく手を叩いて注目させる。
「はいっ、もう解散!!まだ飲みたい人は他所でやって!つまみも酒も持って出た出た出た!」
手を振ってお開きと同時に追い出しをかける私に、お祖父ちゃんが小言を言いながら仲間連中を引き連れて出て行った。
ようやく銭湯の脱衣所という場所を確立して溜め息が出る。
「ははっ、一瞬でお開き。凄いね凪」
「あんたね、お祖父ちゃんと悪ふざけしすぎ!秋光さんヨロヨロじゃん!」
「あいつどうしたの?」
「外で酔い冷ましてるよ」
「ふふっ、あいつ飲めるけど飲めないんだよね~」
「一琉は全然酔ってなさそう」
「かなり飲んだよ。でも、酔わない」
ニッと勝ち誇ったような笑みを浮かべて私に近づいてくると、軽く唇を重ねて離れた。
「お酒臭くないね…」
「酔わないって言ったでしょ。……仕事終わった?」
「まぁね。もう来る人いないでしょ」
「じゃあ、約束の時間?」
「約束?」
「お風呂入るんでしょ?」
あっ、忘れてた。
朝、一琉との約束で代償と称した約束を取り付けていたんだった。
ニコニコとする一琉に苦笑いを返してしまう。
あの意味合いを言ったら一琉はまた怒るだろうか?