蝶は金魚と恋をする
「あの…ね、一琉。お風呂に入ろって言った意味は…」
「同じお湯に。って意味でしょ?銭湯の同じお湯に男女別れて」
「し、知ってたの?」
「そうそう凪が一緒に入ろうなんて言う筈ないからね。こんな事だと思ってたよ」
呆れた様な含み笑いをして私の頭をくしゃりと撫でると、再び柔らかく唇を重ねてきた。
すぐに少しだけ離れた唇が甘い言葉を囁いてくる。
「約束。……一緒に入ろう?」
別々にと分かっているのにドキリと心臓が跳ねてしまう。
だけど、小さく頷くと一琉は嬉しそうに笑って私の頬に口付けた。
女湯の脱衣所に行くと緊張しながら服を脱いでしまう。
見られるわけじゃない。
何も緊張する事じゃないのに…。
服を脱いで下着も外すと、カラカラとガラス戸を開けて中に入った。
かなりの熱気と湯気が独特の世界感を作っていて、桶で掛け湯をしている時に呼びかけられる。
「凪~、銭湯ってルールある~?」
「か、掛け湯してからとか、体洗ってからお湯に入るんだよ」
「了~解」
一琉の声が響いてシャワーの音がする。
確実に隣にいる存在と、今自分が無防備だという状況がかなり恥ずかしくて逆上せそうだ。
いやいやいや、さすがに一琉だってこの壁越えては来ないでしょ。
髪を洗って体を洗って、シャワーで泡を流している時だった。
「凪~」
「ん~?」
「キスしていい?」
カコーン……。
見事響き渡った桶の跳ね返った音と私の心臓の爆音。
大きいのはどっちだろう?
キス?キス!?
していい?って、こっち来る気?!
「ダ、ダメダメダメ!!!無理っ!絶対無理っ!」
「ははっ、焦ってる~。行かないよ?想像で。って事」
「そ、想像?」
「凪………ジッとして……」
ジッとして?
言われるままピタリと止まる。
未だに暴れる心臓が苦しい中で一琉の声が静かに響いて緊張してしまう。
「今ね…、凪の顔を右手で触れた…」
「いち…」
「想像してよ。………凪の髪を撫でながら首の後ろを引き寄せて…」
ダメ…だ。
恥ずかしすぎるのに想像しちゃうよ……。
熱くて緊張する。