蝶は金魚と恋をする
「一琉……っ…やめて…」
「赤い金魚は綺麗だよね…。指先で今なぞってる…」
「一琉っ……」
「黒い金魚は賢いのかな?」
やめてっ、やめて!
咄嗟に体を守る様に両腕で包みこんでしまう。
乱される。
「でも、……つがいなのは寂しいからだ……」
一琉の言葉が静かに響いた。
確信を突かれたような言葉に身動きが取れない。
気がつけば自ら腰に触れていて頬を伝う涙に驚いた。
「凪の……お父さんとお母さんなんだね……」
その言葉に涙腺が決壊して、とめどない涙がながれて湯船に消えていく。
1人でいる事で堪えていた寂しさが崩れた気がする。
「凪、凪のお父さんとお母さん……、亡くなってたんだね…」
久しぶりに改めて突きつけられた現実に涙が止まらない。
「…っ…くっ、……ううっ……」
「凪……」
「…ぐすっ…、うっ……」
「凪………、泣いてるんだ……」
止まらないんだよ一琉…。
寂しい気持ちが久しぶりに零れ落ちて、涙のダムの貯蓄料が半端ない。
寂しさを隠すことを許さない一琉に、知り合った昨日から今までの私を壊されてきて。
ただの弱い子に成り下がりそうだ。
子供の様に泣き叫びたいのに、小さなプライドが声を殺して泣き続ける。
寂しい寂しい寂しい……。
誰か……。
助けて。
「俺が凪の傍にいるよ……」
静かだけどハッキリ聞こえた言葉。
だけど、壁の向こうじゃなくて後ろから。
キツく力強く抱きしめられて頭に唇が当てられる。
背中と胸、濡れた肌が密着して初めての感覚に溺れていく。
「……いち…る?」
「ん?何?」
首だけ振り向くと、お湯に濡れた妖艶な一琉に見下ろされ、今のコレは現実だと知らしめられた。
何?じゃ、ねぇよ!
「変っ態!!!何考えてるわけ!?」
「慰めのキスをしに」
「間にあってる!嫌っ!エッチ!」
「うん、したいね」
全然したくないし!!
いつの間にかボイラー室を通って侵入したらしい一琉に、まさかの裸で密着されて混乱する。
さっきの涙なんて吹き飛んでしまう程の衝撃と羞恥で、逃げ出そうともがくのに一琉の腕が阻んで許さない。
駄目、恥ずかしくて死ぬ。