蝶は金魚と恋をする
Side 秋光
フワリ夜風で再び目蓋を開けてみる。
何時の間にか眠りに陥っていたらしく、微睡む視界と熱くて怠い体に嘆く。
絶対そのうち転職してやる。
なんて舌打ちしながらボヤけた視界をクリアにしようと必死になれば、慣れてきた目が景色を90度角度を変えて映しだす。
酒のまわる頭では、自分が横になっていると気づくのに遅れた。
ようやく理解した時に、フッと視線を上に走らすと。
あっ…、ヤベッ。
自分の失態にようやく頭がハッキリして、むくりと起き上がると頭をかいた。
どうしたもんか……。
確か……。
「夏希………」
思い出した名前を呟いても、彼女の目蓋は重いらしく開かない。
確か、酔い覚ましにつきあった彼女に寄りかかったところは覚えている。
つまりはあの後本気で寝てしまった俺に身動きが取れず、更に崩れ落ちた俺に膝枕してくれてたわけか。
そして、寝ちゃったわけね……。
あどけない子供の様な寝顔にクスリと笑ってしまう。
しかし、いくつだこの子?
成人してる?
あまりに小さくて、触ったら壊れそうな彼女を起こすか迷ってしまう。
迷ったあげく、最初と同じように隣に並んで座ってみた。
夜風がフワリと再び吹いてきて、甘い香りを俺に絡めてながれていく。
それが風に遊ばれて揺れ動いた夏希の髪からだと気づいたのは彼女が俺の肩に寄りかかってからだった。
寝息を立てたまま軽い体重を俺に預けて、不思議な時間が過ぎていく。
しかし、何の香りだろうな…。
ちょっとした好奇心。
夏希の頭に躊躇しながら顔を近づけている時だった。
「あ~きみつ…」
かなりの動揺が走った。
振り返ると嫌味な笑みで見下ろす最悪なご主人様の顔。
うわっ、最悪な弱みを鬼畜な暴君に握られた…。
そんなタイミングで夏希も起きて、眠そうな目を擦ると状況を把握して青ざめてから赤くなった。
林檎……。
俺の中の夏希の印象。
「ご、ご、ごめんなさい!私、寝るつもりは…」
直角に体を折り曲げ謝る彼女の慌てっぷりを笑っていいのか。
とりあえず、下がりっぱなしの頭に手を置いて撫でてみる。
その行動が予想外だったらしい彼女が真っ赤な顔を上げて、小動物の様な目で見つめてきた。