蝶は金魚と恋をする
「………悪かったな。つきあわせて」
「秋光に迂闊に近づいたら妊娠しちゃうよ~?」
脇から余計なセリフを吐く一琉を睨みつける。
間に受けた夏希が僅かに青ざめるのを見て、面白い程騙されやすい性格だと理解した。
「あ、あの、私、失礼します!」
最終的に一礼して慌てて走り去る彼女の後ろ姿を見送ると、含み笑いを浮かべる一琉に舌打ちする。
「秋光、ああいう子がタイプ?」
「あっ?タイプとかよく分からんし。ただ酔ったのを介抱してくれてただけだよ」
「え~、恋愛は自由だよ?俺が凪と駆け落ちするならお前だってこっちが本拠地なんだしさ。好きになっても支障はないよ?」
「アホか…。お前と違って一目惚れとかする程若くねぇよ」
そう言うと、クスクス笑いで人をバカにする一琉。
「しかし、本気で凪ちゃんと一緒にいるつもりか?」
「当たり前でしょ?凪は俺が初めて自分で見つけて欲しいと思ったものだよ。最初の予定を無しにしても、もう凪以外はいらないや…」
独占欲…ね。
あまりこいつにはそれが無いようだったのにな。
良い傾向か、悪い傾向か。
凪ちゃんを好きになる事で大人になるなら大歓迎だけどな。
乱れたシャツのボタンを留め直すと夜風を感じて目を閉じる。
あの甘い香りは何だったのか気になる気持ちをかき消して銭湯の中に戻った。