蝶は金魚と恋をする
パニックになって、かなり紅潮した泣きそうな顔で一琉を見たんだろう。
一琉は一瞬、キョトンと疑問を浮べて、すぐに理解するとクスクス笑い出した。
「凪、エッチな勘違いしてない?」
「なっ、えっ?」
「いや、勘違いしたまま触ってもらっても嬉しいけどさ。俺が言ったのはタトゥー、…蝶々の方」
あっ、死ぬ程恥ずかしい。
羞恥心で死ぬかもしれないし、むしろ死んで忘れたい。
「でも、触る?触っちゃう?止まらなくなるとは思うけど」
「嫌、無理だから!!」
「そんな全力で拒否しなくても……」
何でそこで落ち込むわけ!?
わかんない、触って欲しかったわけ?!
男心はわかんない!
混乱していると、一琉がキュッと抱きしめてきて甘えた様な声を私に向ける。
「凪、ギュッとして……」
「えっ?あっ、えと…」
こう?
背中に手を回して抱きしめ返すと一琉はようやく満足そうに微笑んだ。
あっ、何か……可愛いな……。
そう思ったのに…。
「……………っ…」
「……ごめん………、俺も男の子だからさ…。凪のおっぱい当たって欲情しちゃった。……生理的な物だし許して」
やや苦笑いで、ごめんと呟く一琉を引き離して布団から出てタオルを巻いた。
「ごめん~、凪~、朝だし仕方ないよ~」
「うっさい!近づくな、妊娠する!」
「えっ、妊娠するなら好都合じゃん」
「一琉嫌い!!」
「………」
お、黙った。
私が言い捨てると、黙って布団に潜ってしまう一琉。
何なのよ~。
溜め息をつきながらとりあえず自分の服を着替えて再び一琉を見る。
未だに布団に包まる一琉にそっと近づいてみた。
時計の針はまだ7時半。
今日はまだ余裕がある。
「一琉……」
布団の塊に手を置いて、優しく呼びかけてみても一琉は布団から顔を出さず。
どうやらすねてしまったらしい一琉に再び声をかけていく。
「ね、一琉?いじけてるの?」
「………嫌い。とか……寂しい……」
「…………ごめん…ね?」
言われて確かにそうだと思う。
自分を拒絶する言葉は大なり小なり相手を傷つける。
私はそれを知っていた筈なのに。