蝶は金魚と恋をする
頭の端で、幼声の私の声が『大嫌い』と叫ぶ声がした。
その声にキツく目を閉じたけど、ゆっくり目蓋を開くと布団の中にばさりと入って一琉の背中に抱きついてみた。
してみたはいいけど恥ずかしくて顔が熱い。
心臓もかなり早くて、大胆な事をしたと思う。
「……凪?」
「………嫌いじゃないよ。………ムカつくけど…嫌いじゃない……」
むしろ……好き…。
巻きつけていた手を滑らせて一琉の蝶々に触れてみる。
その手に一琉の指先が絡んできて、素早く体を私に向けると一琉の唇が私の呼吸を奪っていった。
自分でも驚くくらいキスに溺れた。
重なりが気持ちよくて、啄ばむ感覚が一琉を感じさせて。
傍に一琉がいるという安心感に見事呑まれて、お互いに腕を回して抱きしめあった時だった。
官能的な空間を破る携帯の音。
ああ、また一琉だ。
着信に気をとめながらも、キスを続け携帯を手にし相手を確認する一琉。
そして、名残りおしそうに唇を離して苦笑いをする。
「残念、出る方の着信だった」
変なの…。
着信に出るタイプ出ないタイプがあるのか。
「はいはい、久しぶりだね~」
久しぶりって事は叔父さんじゃないのか。
そんな事をポカンと考えてしまう。
私を抱き寄せたまま電話しているもんだから相手の声も時々聞こえる。
「美人の奥さんは元気?」
“ 元気だけど、元気じゃねぇ…”
「ああ、2人目妊娠中だっけ?」
“ だから胎教に悪い事には巻き込むなよ”
「わかってるよ。でも、黒子生活もそろそろ終わりでしょ?本当に優秀だよね…」
“ 嬉しくねぇし。今日の昼からこっち来いよ、秋光に電話いれておいたから”
「優秀~」
一琉がちゃかすと通話は切れた。
相変わらず掴めない電話を繰り返す一琉にさほど疑問も感じなくなっていて、謎めいた一琉の本当の姿は開けてはいけないパンドラの箱みたいだ。
携帯を後ろに放り投げると、一琉が続きとばかりにせまってくるから咄嗟に口を押さえてしまう。
「凪?何で?」
「……もう、サービスタイムは終了しました」
「みじかっ!また金魚すくい!」
だから、その表現なんなのよ…。