蝶は金魚と恋をする
呆れ顔で一琉を見上げるとかなり不満そうに視線を逸らす。
また、いじけてる。
そう分かってクスリと笑うと、本当に一瞬唇を重ねてすぐに離れた。
不意をついたキスに一琉はかなり驚いた目で私を見つめ、私は一琉がバカになりすぎないうちに布団から出てキッチンに向かう。
一瞬でも自らした初めてのキスに羞恥の熱で燃え尽きそうだ。
恥ずかしくて振り向けなかったから後ろで一琉が小さくカッツポーズをかましているのも気づかず。
そのまま朝ごはんの準備を始めた。
しばらくすると一琉が服を着替えて後ろから覗きこむ。
さっきの恥ずかしさも働いて少し離れると、すぐに腰に一琉の腕が絡んで私を後ろから抱きしめてくる。
「い、一琉……ご飯作る邪魔……」
「ん、だって……、凪からのキス嬉しかったんだもん」
「…そ、………ヨカッタネ……」
ぎこちない会話だけど一琉の温もりが嬉しくて。
たった1日だけなのに一琉の存在は当たり前のように馴染んでいて。
今更失う事はかなり恐い。
僅かな不安が揺れ動いた時に玄関扉の鍵がガチャリとあいた。
はっ?!誰っ?!
中から施錠して、鍵は私が持っている今外部から開けるなんて不可能な筈なのに。
かなりの緊張が走った後に扉が開いて顔を出したのは秋光さんだった。
「おはようさん。何だ?朝から仲いいなお前ら」
「新婚ですから」
「してないから!ってか、何で鍵開けられるわけ?」
「あん?一琉に頼まれて合鍵作ったからだよ」
なんの悪気も無しに手にしていた鍵を一琉にひとつ投げ、もうひとつは私に返してきた。
ありがとう。なんて、ヘラっと笑う一琉を睨みつけると、一琉はどうしたの?的な笑顔を向けてくる。
「あんたがやってるの犯罪だから…」
「だって、同棲してるのに鍵ないと不便じゃん」
「一言断ってからでもいいじゃない?!」
「凪かたいな~」
ケラケラ笑う一琉が頭にきて、秋光さんを巻き添えに向こうの部屋に追いやると作りかけの朝食にとりかかる。