蝶は金魚と恋をする
一瞬、一琉の食事を作らないでやろうと思ったけど、それをした時の一琉の反応が恐くてやめた。
ご飯とお味噌汁と目玉焼きにサラダ。
最後にたこさんウィンナーを付けたしてみる。
結局一琉が喜びそうな事をしてしまう私は、本気では一琉を怒っていないのだと分かる。
でも悔しいから一琉のウィンナーのもうひとつはなんの細工もせず、秋光さんの方だけタコとカニに細工する。
小さな仕返し。
それを2人の前に並べると案の定一瞬感動の色を見せた一琉が秋光さんのお皿を見て眉根を寄せる。
「何で…、秋光のは2つ共してあるのに俺のはひとつだけ?」
「さぁ、秋光さんのが好きだからじゃない?」
瞬間、一琉の冷たい視線が秋光さんに集中し、秋光さんは私に視線を逸らした。
「すみません。痴話喧嘩に俺を巻き込まないでくれない?マジで昨日の二の舞は無理だから」
確かに、このままだと秋光さんが危険なのか。
昨日の哀れな姿を思いだし、一琉には私のカニをお皿に乗せた。
途端に機嫌を直す一琉に秋光さんと胸をなで下ろす。
王子様を怒らせるのは危険だなぁ。
そんな事をしていれば時間は見事過ぎていて、慌てて食べ終わったお皿を片付けると鞄に荷物を詰め始める。
「一琉っ、行かないと遅れちゃう」
「あっ…、ゴメン凪。俺昼間は用事あるんだ」
「えっ?」
驚いて足を止めると、一琉は申し訳なさそうに微笑んでくる。
そう言えば電話で呼び出されているようだった。
一琉が自ら向かうのだから害のない人なんだろうけど、急に不安にかられてしまう。
離れて、戻って来なかったらどうしよう。
そんな気持ちを読み取ったらしい一琉がゆっくり立ち上がって柔らかく抱きしめてくる。
「凪、大丈夫だよ。帰ってくるから心配しないで」
優しく私の頭を撫でると唇を重ねてくる一琉。
胸が締め付けられて泣きそうだ。