蝶は金魚と恋をする
Side 凪
じりじり暑くて蝉がうるさい。
正直蝉は苦手でいつ飛び立つかビクビクしてしまう。
たまに道路に落ちている蝉にもビクリとするくらい苦手なのに、今日は厄日らしい。
まさかの入り口横に張り付いているのだから。
数分真剣に悩み続け、炎天下で頭がバカになりそうな中、近くの箒に手を伸ばすと恐る恐る蝉の近くで振ってみる。
結果…。
ジジッーーーーーー。
「きゃあぁぁぁ!!」
いい歳して絶叫すると、飛び立った蝉に驚いて後ろによろめく。
ああ、バカみたいに尻餅をつくのか。なんて、諦めながら後ろに倒れると。
ドサッと背中が誰かに支えられた。
一瞬香る甘い香り。
「大丈夫?」
柔らかい低いトーンが耳に響いて、自分を支えてくれた存在を振り返りながら見上げると。
わっ………、カッコイイ人……。
多分、中年と言えば中年範囲なのかもしれない。
でもかなり若々しく見目麗しいその人はどこぞの有名な俳優やモデルと言われても納得いく位だ。
最近の私の周りは美形が豊富だな。
「ふふっ、立てない位驚いた?」
言われてすぐに自分が寄りかかったままだと気がついて、慌てて自立すると頭を下げる。
「あ、ありがとうございました」
「ん、いいよ。久しぶりに若い子受け止められたし。……あれ?セクハラかなコレ」
「い、いえ、気になさらず。セクハラされるのも若さの特権かと…」
「ぶっ……、ははっ、面白いね君。……この銭湯の子?」
「あっ、はい」
返事を返すと、その人はじっくり私を観察しはじめる。
でも私もうっかりその人を観察してしまっていたからその事に気づくのが遅れた。
じわじわと攻撃してくる日差しの熱で正気に戻って、慌てて仕事を思い出す。
「あの、私仕事なんで……」
「あっ、俺お客なんで…」
この人がウチの銭湯に?
どう見ても銭湯とか似合わなそうなその人だけど、お客と言うなら拒むわけにいかず。
掃除が終わるまでは座って待ってて貰う事にした。