蝶は金魚と恋をする
30分位してからだったか、暖簾がフワリと揺れ動き髪を湿らせ色気割りましになった美形さんが姿を現した。
「ありがとう。久しぶりにのんびりしたかな」
「いえ、こちらこそ。ありがとうございました」
笑顔を返すと、優しいけれど含みのある笑みを浮かべたその人がガラス戸を開けて外に出る。
瞬間。
「またね………凪ちゃん……」
凄く自然に言われたから気づくのにかなり遅れてしまった。
気づいた時には扉は閉まり、甘い香りを残してその人は消える。
名前……、言ったっけ?
疑問に思っていると、ひとつ前の疑問が解けた。
あっ、柑橘類の香りだ。
漂う香りの疑問が解けて名前の疑問が薄れていった。