蝶は金魚と恋をする
静かな空間に私の泣き声が響く。
息が苦しくなる位泣き続けてどうにかなってしまうんじゃないかと思った。
「……いち……る………」
苦しい中で絞り出すように名前を呼んだ。
フワリと風が流れこみ、カラカラと扉の開く音がした。
そして涙で霞む目に映ったのは驚き双眸を見開く一琉の姿。
「一琉……、一琉…だ……」
「……っ……」
番台からよろめきながら出ると、勢いよく抱きしめられた。
キツく強く抱きしめられて、一琉の温もりと匂いに安心する。
「ごめん、凪っ、ごめんね…」
「一琉……、寂しいのは……嫌だよぉ……」
「うん、…うん、凪、遅くなった。だけど、凪の傍にいるから……、泣かないでっ……」
まるで一琉が泣きだしそうな声を出して私を更に壊れる位強く抱きしめると、すぐに唇を重ねて私を求めてくる。
お互いを貪るようなキスを重ね、深まるキスの合間に一琉の舌が口内を犯し、それに私は自ら絡みにいってしまった。
一琉の背中に腕を回し、その存在を確かめて溺れる。
クリップで留めていた髪がはらりと落ちて、その髪を巻きこむように一琉の手が首の後ろにまわった。
唇が僅かに離れると、お互いがどれだけ激しくキスを交わしていたかが分かるように呼吸が乱れている。
「凪………、また、お風呂入ろう?」
優しく微笑んだ一琉が私の頬の涙を拭う。
小さく頷くと、一琉はガラス戸の鍵を閉めた。
泣きすぎて頭がボーッとする中、一琉が優しく私を抱き寄せて私の服を脱がせていく。
子供が親にしてもらうみたいに身をまかせて、恥らう事無く一琉に素肌を晒してしまう。
私の頭を占めていたのは一琉が戻って目の前にいると言う事実だけだった。
一琉も目の前で脱いでいくのをただ傍観して、無防備になった一琉の蝶々に視線が移る。
「蝶々を………捕まえた?」
ボソリ呟くと、一琉はクスリと笑って抱き寄せてくる。
素肌が密着してようやく体が、顔が熱くなった。
「針で刺すなら今だよ凪……」
一琉の甘く危険な誘いに体が震える。
唇が軽く重なって、離れると弧を描いて私を浴場に引いていく。