蝶は金魚と恋をする
秋光さんが不思議な顔で私を見てくるから、誤魔化すように手元にあったイチゴ大福を差し出してみる。
「秋光さん餡子系好きって言ってましたよね?これ夏希ちゃんが作ったんです」
「へぇ、旨そうじゃん」
勧められるままに手を伸ばし一つ取り上げるとそれにかぶりついて。
夏希ちゃんが再び赤くなりながらそれをチラリチラリと確認している様子が可愛いらしい。
「旨いよ。すげぇじゃん夏希」
指についた大福の粉を舐めながら秋光さんが夏希ちゃんに感心の視線をおくり。
それをまともに受けるのが耐えられなかったらしい夏希ちゃんが、突然立ち上がると私と秋光さんに頭を下げ出す。
「す、すみません!私、失礼します…」
ガラリとガラス戸を開けると、赤い傘を手に飛び出す夏希ちゃん。
一瞬呆気に取られたけれど、ハッとして秋光さんの腕を引いた。
「秋光さんっ、夏希ちゃんを追いかけて送ってあげてよ」
「あっ?何で俺が?」
しまった…、理由がない。
一瞬目が泳ぐものの、すぐにこじつけの理由を思いついて口にした。
「ゼリーの器!あれを返そうと思ってて。ほら、雨だしさ…」
「………なんか…、凪ちゃんっぽくねぇな」
疑惑の眼差しを受けつつ、すっとぼけた表情で器の入った袋を手渡した。
それをなんやかんやで受け取ると、溜め息混じりで中を確認した後に私を見つめる。
「凪ちゃんも一琉に感化されてきたか。俺をパシリにするんだもんな……」
「うっ…、すみません…」
そんなつもりでは無かったんだけどな…。
結果パシリに使ったという後味の悪さに苦笑いをしてしまう。
だけど、秋光さんは諦めたように力無く笑うと私の頭を撫でてガラス戸を開けた。
その姿を見送る感じに見つめていると、何かを思い出したように私を振り返って。
「帰ったらさ……」
「えっ?」
「一琉に優しくしてやってくれ」
困った様に笑う秋光さんに驚きの表情を返してしまう。