蝶は金魚と恋をする

秋光さんが眉根を寄せて言うものだからどうしても恐い。


困って下を向くと、秋光さんの溜め息が響き顔を上げた。



「俺って・・・そんなに恐いかなぁ・・・。だとしたら悪いな。悪気は全くない素がコレだ」


「あっ・・・、いえ、なんかスミマセン・・・」



素にしていた人に気を使わせてしまった。


申し訳ない気持ちで下をむくと、突然紙袋と傘を渡される。


驚きながらそれを手にすると、秋光さんが傘から出て雨降る中に駆け出していく。


一瞬何事かと思ったけれど、秋光さんの少し前をフワリと舞った赤に視線を奪われた。


あっ……私の傘……。


風が上手い事傘を舞わせ、翻弄されながらも秋光さんがそれをようやく捕まえた。


何とかそれを手に戻ってきたけれど、代償の様に秋光さん自体はずぶ濡れで帰ってくる。



「ほら、折れてねぇと思うけど……」


「あ、ありがとうございます！」



慌てて頭を下げると、私の運の悪さを露見する様な突風が吹き、私が持っていた紺色の傘は見事にひっくり返って使い物にならなくなった。


ヤバイ、雨が冷たい。


でも頭があげられない。


せっかく雨に濡れてまで秋光さんが傘を取りに行ってくれたのに、私は秋光さんの傘を壊してしまいました…。


変な汗が出てきそうな中で、秋光さんの沈黙がかなり恐い。


今にも涙が零れ落ちるんじゃないかというタイミングで笑い声が雨と一緒に降ってくる。


雨は空から、声は秋光さんから。



「あっははははは…、お前って何でそんなに鈍臭いんだよ」



その声に反応してゆっくり顔を上げると、ドキリと痛いくらいに心臓が跳ねた。


流れてくる雨水を拭う為だったのか髪の毛が乱れて前髪が下り。


笑う事によってさっきまでの仏頂面からだいぶ幼い印象にそれを変えた。



「秋光さんて……、そんな風に笑うんですね」


「ん？そんな風って？」


「いや…。可愛らしいと言う……」



そこまで口走って咄嗟に口を噤んだ。


遥かに大人の男の人に可愛いはないでしょ私。