蝶は金魚と恋をする
「…っ…い…ちる…」
重なっている状態で言葉を発すると、黙れ。的な意味なのか重なりが深くなり。
柔らかく動く唇の動きにしている事を理解させられて、自分の中にあったのを忘れていた羞恥心が身体を占めた。
チュッと、軽い音をたてながら名残り惜しそうに離れた唇が、まだ触れそうな位置で危険で甘い言葉を吐いていく。
「凪の唇……、癖になる……」
そして、あろう事か3度目の重なりを与えられそうになり、ようやく一琉を押し返して離れる事に成功した。
一琉はキョトンと、何故拒絶されたのかわからない。と、言った表情を見せて。
私は久しぶりに顔が熱いという事態を体験している。
「い、一琉。……キスは駄目って言ったじゃない」
「だって、可愛かったんだもん。キスなんて挨拶みたいなものじゃん?」
「ここは日本だから、挨拶は日本風でお願いします」
「つまり、キスは恋人の証の行為。……か」
そう呟くと妖艶な笑みでキスの余韻を味わうように唇を舐める一琉が扇情的で、危ない魅力の悪魔の様に見えた。
「凪ってさ、キス慣れてないよね?」
「わ、悪い?」
「ん、可愛い」
「ちょ、近寄らないで……」
じわりと距離を縮める一琉に、どう考えても危険な雰囲気を感じて逃げ腰になってしまう。
後ずさって壁に突き当たると頭の両サイドに一琉の腕が伸びてきて、ゆっくり顔を近づけてくる。
拒みたいのに拒めない。
一琉は人の意思を根本から崩すような魅力を持っているから。
唇が微かに触れた時だと思う。
携帯のバイブ音が響いて、一琉が顔をしかめながら私から離れると自分のズボンの後ろから携帯を取り出して確認した。
だけど応答するわけでもなく、なり続ける携帯をポケットに戻した。
「で、出なくていいの?」
「うん。出ると面倒な人からだった」
「か、彼女とか?」
「ははっ、俺の彼女は凪じゃん」
それはごっこ遊びなんでしょ?
婚約者がいるくせに…。