蝶は金魚と恋をする
『捕まえて、ピンで刺すなら今だよ・・・』
私の目の前はヒラヒラと翻弄しつつも自ら捕まりに来る一琉。
捕まえて。と、でも言いたげに目の前に存在するから、その魅力的な誘惑に勝てずに手を伸ばしてしまうんだ。
でも、一琉を取り巻く世界が明確になるにつれて焦りだす。
私を選ぶと言う事は・・・、一琉には今まで生きてきていた世界を捨てさせるって事なんだよね?
つまりは・・・一琉の両親・・も・・・。
そこまで考えて頭が痛くなってきたから番台に突っ伏して溜め息をつく。
「あ~・・・・もう、一琉なんて拾わなきゃよかっ・・・」
ほとんど言ってしまっていたのに言葉尻を飲み込んだ。
それを言ったら終わりな気がして。
ここ数日の幸せな気持ちも否定するみたいだ。
私・・・、どうしたいんだろ?
こんな風にグダグダ悩んで、一琉を悩ませて。
不意に一琉の叔父さんの言葉が頭をよぎる。
『好き以外に理由なんている?』
いるよ・・・。
きっといるはず。
好きあってるだけでさ・・・、何もかも忘れて突っ走るなんてきっと出来ないよ。
ああ、堂々巡り・・・。
そんな風に結果項垂れているとガラリとガラス戸が開いて、視線を移せば目の前に雑誌から抜けてきたような綺麗な女の人がこちらを見た。
最近本当に私の周りは美人が多い。
肩までの緩やかでふわりとした雀茶のウェーブにグリーンアイと言うのか、茶色味がかった緑の眼。
綺麗としか言いようがない。
見惚れて固まっているとその人も私をじっと見つめた。
「・・・・・・凪・・ちゃん?」
「・・・・はい・・・」
突然呼ばれた名前に、もうそんなに動揺はしなくなっていた。
一琉と関わってからは美人に遭遇する率が高いし、名前を知っている人は大抵一琉がらみの人なんだから。
「はじめまして。うん・・何を説明しよう?」
挨拶までは流暢に口にしたその人が、その後の事をどう説明しようかと唇に指をあてる。
一つ一つの所作が全て絵になるくらい綺麗で、再び見惚れてしまいそうになった時にふわりと甘い香りが匂う。
あっ、この香りには覚えがある・・・。
そう判断すれば、この人の存在も自然と解読出来た。