くたばれクリスマス
『誤解しないでほしいから言っておくけどね、私巧に誘ってもらえて嬉しかったよ。でもね、行けないの。
……あんまり忙しすぎて忘れていたけど、わたしが巧と一緒に働き始めて、もう2年近くになるんだね。この2年、ほんとうにいろいろあったね。
……一点モノのネックレスにうっかりオーダーが重複で入れちゃったり、物撮りの小物に使ったイタリア語の本のタイトルが実はエロい言葉だったことが分かって慌てて差し替えたり、亮介くんの作品が雑誌で取り上げられてオーダーメイドの予約がパンパンに入っててんてこまいになったり、酒豪の三浦さんと半年以上飲みに歩いて、そのおかげであのお店にウチの商品ちょこっと置いてもらえるようになったり。
トラブルも良い事もいろいろあったね。
ほんと、毎日目を回しそうになるくらい忙しかったし、企画進行してるときなんてもう全部投げ出して逃げたくなるくらい辛いときもあったけど。でもすごくたのしかった。ほんとうにたのしかった。それもこれも、全部巧のお陰だね。
………ねえ巧。
巧はずっと私に黙っていたけど。私ね、知ってたの。2年前、私が村井と離婚協議中、巧が亮介くんに土下座までして、私のこと『どうかウチの会社に雇ってやってくれ』って頼んでくれたこと。
『あいつは美大出身だし、よく気の回る奴だから、ウチの会社のためにきっとよく働いてくれるはずだから』って、そう言って頭下げてくれてたんだってね。
『あいつが立ち直るためには、仕事しかない。自分ひとりで身を立てることが出来るようになれば、あいつはきっとやり直せるから』って。そういって私が『a.q.e』に就職出来るように亮介くんに頼み込んでくれたんだってね。
……私には、今会社、人手がなくて困ってるから手伝いに来てみるか、なんてそんな言い方してたのに』
--------あいつめ。亮介はなんだって、今更美雪にそんな話。