くたばれクリスマス
「………違う」
違う、そうじゃない。
俺はやさしくなんてない。
だって俺は気付いてた。おまえが電話を掛けて俺に助けを求めてきたとき。受話器の向こうで声を震わせて『助けて』って言ったおまえに、なにか尋常じゃないヤバいことが起きているんだって、俺は気付いていた。
だけど俺はおまえをあしらって『ざまをみろ』だなんて吐いた。
電話を切った後、一緒に飲んでた同僚に、『昔の女がなんか知らないけど助けを求めてきた』ってジョークみたいにせせら笑って、『俺を捨てたりしたから罰が当たったんだ』って、そうあざ笑っていた。
あんな女、不幸になればいいんだって、本気で俺はあのときおまえの不幸を願っていた。
おまえは2年前のあのクリスマスの夜、本当に俺が望む以上に不幸な目に陥っていた。
隣人の若い男にただ一言挨拶をしたときの様子を見咎められて、『色目を使っていただろう』ってそんな言いがかりを付けられて、嫉妬に狂った亭主に殴られ続け、土下座をしても許してもらえず、美雪は全裸で冷水を浴びせられ、真冬のベランダに何時間も放り出された。
寒さに耐えかねて亭主が出掛けた隙に血まみれになりながらガラスを破って、どうにか部屋に入って。震える手で電話をした相手が俺だった。
美雪の携帯のデータはすでに嫉妬狂いの亭主にすべて消されていて、あいつが番号を記憶していたのは実家の番号と、俺の携帯の番号だけだった。
亭主が帰ってくる恐怖に振るえながら、悩んで悩んで悩み抜いて、それで助けを求めた相手が俺だった。
なのに俺は何度もごめんねと言って謝るおまえを馬鹿にして、助けてといった言葉を無視をした。ろくに事情も聞こうとしないで、冷淡に通話ボタンを切った。
俺はそういう男だ。おまえが言うような、やさしい男なんかじゃない。