くたばれクリスマス
* * *
-------外は、雨が降っている。
誰もが浮かれた顔をしている12月25日。
誰もがしあわせそうなふりをしようとするこの日。
まるでおまえが俺にしたことも、俺がおまえにしたことも、すべて流し清めようとするように今年の聖なる夜には激しく雨が降っている。
でも、それでも洗い流せない何かが、俺の胸の中にはある。
俺は美雪に対する感情が、贖罪なのか、同情なのか、恋愛感情なのか、単なる仲間意識なのか未練なのか、執着なのか。もうよく分からない。でもひとつだけはっきりしてることがある。
だから俺は携帯をコールする。
『美雪。これから何も言わずにこのまま黙って俺の言うことを聞け』
コール音が途切れると俺は間髪入れずに喋りだす。
『……俺は。……俺はこれから東京駅に行く。あの赤レンガの正面のイルミネーションのとこに行く、待ってるから、何時になったってかまわないからだから来てくれ俺はどうしてもおまえに来てほしいんだ……っ…」
一息でそれだけ言ってすぐに電話を切る。電源も切って、俺はそれを懐にしまう。
間違っているのかもしれない。これが正しい答えなんかじゃないのかもしれない。でも俺は、今なら自分があの窮屈な銀色の輪っかに縛られてみてもいいんじゃないかって思うんだ。
今度こそ俺はおまえと一緒にいる未来を描けるんじゃないかって。
こんなの、またクリスマスの雰囲気に当てられているだけなのかもしれない。
おまえは今更こんなこと、すこしも望んでいないのかもしれない。やり直すにはもう手遅れなのかもしれない。おまえの心に届くには俺はもう遅すぎたのかもしれない。
おまえが本気で俺の前からいなくなるつもりなのかもしれないっていう今になって、離れたくないって気付くなんて、ムシがよさ過ぎるだろう。
でも俺は、なんでかおまえがきっと来てくれるって確信みたいな気持ちがあるんだ。
それがただの俺の自惚れなのか、真実の確信なのか。
それを確かめるために、俺はデスクの上にあるリングをふたつともポケットに突っ込む。それから濡れるのもかまわずに土砂降りの中を駆け出していった。
<end>