くたばれクリスマス



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『……私、今日はもう別の人と約束してるの』



俺が美雪に捨てられたのはクリスマス。付き合って3年目のことだった。

ケーキと安物のシャンパンを手に突然やってきた俺に、美雪はチェーンの掛かった扉越しにそんな言葉を吐いた。


『巧がここに来るなんてもうないと思ってた』


歓迎していないことがひと目で分かるような、戸惑うような迷惑そうな顔。それもそのはず、わずかな隙間から覗いた美雪の足元には、明らかに男物だと分かる大きな革靴が行儀良く並べられていた。


『おい開けろ。誰が来てんだよ、おまえ俺に隠れて男作ってたのかッ?』
『…………ごめん、巧。ここにはもう来ないで』


しばらく会えなかったのも、連絡をとってなかったのも、仕事が忙しいから。別に疚しいことをしているわけじゃないんだから、あいつだってわかってくれる。

そう思っていた俺の慢心は、いつの間にか取り返しがつかないくらい2人の間に大きな溝を作っていた。

よりにもよってクリスマスなんかに恋人の心変わりを知るハメになった俺は、悔しさと恥ずかしさのあまり、手に持っていたものをどちらもアパートのドアにぶち当てた。



『クソッ。くたばれ、この浮気女ッ。おまえなんか不幸になっちまえ!』





---------もう5年も前の話だ。





その5年の間に、美雪は相手のその男と結婚をし、そしてそれから1年もしないうちに離婚した。



『……巧、助けて……』



俺ではない男と結婚して、人妻になって幸せに暮らしているはずの美雪が、そう俺に助けを求めてきたのも、なんの因果なのかクリスマスの夜だった。



俺たちには、世間の奴らが浮かれてのぼせ上がってるこの日に、いい思い出がない。



だからというわけでもなかったけれど、雨に打たれた寂しげなイルミネーションの映像をみているうちに思わず呟いていた。



「………なあ、美雪。今からここに行かないか」



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