くたばれクリスマス
「ここって?」
美雪は背中越しに返してくる。
「東京駅?駅舎の前の行幸通りだってさ。銀杏並木ンとこの」
美雪はようやく手を止めて、俺の方に振り返った。
「駅前ピカピカやってるみたいだから行ってみないか。おまえさ、帝国ホテルだとか、アクアシティだとか、派手なイルミネーション、昔よく見に行きたがってただろ」
「………………本気なの?」
美雪は不可解そうに眉を顰める。それも無理もない。
付き合ってる間、俺は毎年のように美雪にせがまれても、一度も美雪をそういう場所に連れて行ってやったことはなかった。そのくせ恋人でもなくなった今になって何を言い出すのかと、そう呆れられても無理からぬことだった。
「おまえ地元戻ったら、もうなかなか東京になんて来なくなるだろ。最後の東京土産にさ、見に行くのもアリなんじゃねえの?」
あえて俺はたいして興味がなさそうな顔をして誘う。美雪はそんな俺の顔をじっと見て。俺が2本目の煙草を灰皿に沈ませると、小さな声で言った。
「………いいよ。行こっか」
いざ応じられてしまうと、俺は驚きと微かな困惑で美雪を追い立てた。
「じゃあ決まりな。ならもう仕事もやめやめ、とっとと行くぞ。……外、かなり冷えるみたいだから、おまえ先に下のコンビ二でカイロでもビニールの合羽でも買っておけよ」
今になって元カノをデートに誘ってしまったような展開に、俺の方が照れ臭くなり、俺は「戸締りはしておくから」と言って先に美雪を事務所の外へ押し出した。
「………何やってんだ、俺は」
1人になった部屋で思わず呟く。