金魚の群れ
辻堂さんの観察を始めて数か月。季節は徐々に冬へと移り、感染症が流行する時期に入った。食堂で働く身としては、絶対に気の抜けない時期。

手洗い、うがい。

基本的なことだけど、これが一番確実な気がして、朝も夜も、昼の休憩のときにもがんばって行う。
そのおかげなのか、体調を崩すことなく空いた時間はバイトに明け暮れていた。

「ひめちゃん。急だけど今日バイトに入れるかい?」

そんな電話が入って、ちょうど授業が休校になっていたので、すぐにいつもの場所に向かった。

「やだ、どうしたの、マスクなんかして」
「だって、営業部でインフルが流行っているのよ。予防よ、予防」

顔の半分をマスクに覆った社員の人が、目の前でおしゃべりを始める。

『そうだよね、今インフルエンザ流行っているもんね。先生だってなるんだからしょうがないよ』

今日の休講の理由が担当教諭のインフルエンザということで、心の中でそう思いながらメニューを仕上げていく。

よく見れば、食堂の中にもマスクをした人がたくさんいる。
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