金魚の群れ
人の波が押し寄せたように、引いていくと残されたのは水に浮かぶ食器たちで、スポンジで簡単に汚れを落としてから大きな食器洗い機の中に入れていく。

返却口となっているカウンターの向こうには、8人掛けの長いテーブルが行儀よく並んでいる。
1000人規模のこの会社。
一流企業といってもいい会社の社員食堂は、食品業者に委託運営されている。
私はその委託会社にバイトとして雇われた。

ビルのワンフロアーに設けられた食堂には、休憩のために訪れる人もいるが、食堂の業務は3時まで。
片づけをしていると大体4時ぐらいに終わるこの仕事。

こんな大企業の社員食堂にバイトとしてきたのはちょうど1年半前。
入学したての短大のこともわかってきた夏の始まる前。仕送りと奨学金とでなんとか生活はできていたけど、夏休みの間にできるバイトを探していて見つけたのがこのバイトだった。

食堂の補助員

友達はカフェとかどこかの販売員とかをしていたけれど、人と話すのが少し苦手な私には向いているのではないかと思えた。
しかも、時間は10時から4時。

これなら夕方からほかのバイトと掛け持ちができるかもと思って応募すると、面接の人に驚かれた。

「大丈夫?この職場おばさんばっかりだけど。それに思ったよりきついかも・・・。」

面接官がそんなこと言ってもいいの?と思わないでもなかったけれど、とにかく一度働いてみたいので…。という理由で採用してもらった。

確かに思ったよりもきついバイトで、鍋とか、食器とか重たいものを運んだり洗ったり。
食事の盛り付けの仕方が悪かったりすると文句を言う社員の人もいる。

それでも周りのおば様たちがすごくよくしてくれて、自分の娘のようだといって面倒を見てくれた。
そして、夏休みだけでやめるつもりだったバイトも、「時間の都合のつくときに来たらいいわよ、こっちも助かるし」

といって、上の人に交渉してくれて私の都合のいい時間でシフトを組んでくれた。
現場を取り仕切るおば様たちには、本社の人たちも頭が上がらないらしい。
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