幕末オオカミ 第三部 夢想散華編
「けどな、逃げるわけにはいかねえんだ。
お前はできるだけ、総司のそばにいてやってくれ。それが総司にとって一番の薬になる」
あたしがいることが、総司にとっての薬になる……。
そうかもしれない。
別れを予感してつらいからと言って、こんなふうに逃げてちゃダメなんだ。
途端に、弱い自分が恥ずかしくなってしまう。
「そうですね……あたし、部屋に戻ります」
あたしがいないとわかったら、総司が不安がるかもしれない。
立ち上がると、副長も部屋の方に向かって歩き出す。
「副長はすごいですね。二千の兵の参謀だなんて。
あたしだったら、きっとどうしていいかわからなくなって、泣いてばかりだと思います」
局長がいなくなっても大軍を率いて戦うなんて、新撰組の他の誰にもできないことだと思う。
「……すごくなんてねえさ。俺も、お前と一緒だ。近藤さんのことを考えれば考えるほど、怖くなる」
「えっ?」
まさか副長が、あたしと一緒?
局長に何かあったらと思うと、居ても立ってもいられない気持ちになるのはわかるけど。