幕末オオカミ 第三部 夢想散華編
引き裂かれる思い
夕方になり、山の中で隊士たちが野営の準備を始めた。
「副長、お加減はいかがですか?」
「まあ、大丈夫だろ」
副長は足を負傷したため、包帯をぐるぐる巻きにして、着物と袴で移動をしていた。
靴も履けないし、洋装より少しは楽みたい。
副長の周囲は、念のためあたしたちで囲んでいた。
死んだことになってる平助くんは狐の姿で、総司は襟巻で口元を隠して。
そして忍装束のあたしも加え、明らかに怪しまれているけど、副長が「こいつらは新撰組の隊士だ」と言えば、他の幕兵は何も言わなかった。
昨日の宇都宮城攻防戦で、色々と信じられないものを見てしまった幕兵たちは、戦による集団での気鬱で、夢でも見たのだろうと勝手に解釈してくれているみたい。
あたしたちは兵士から少し離れたところに落ち着くことにした。
総司に体を支えられ、副長は地上に腰を下ろし、ふうと息をついた。
夕闇の中で見るからか、顔色が悪い。
本来なら安静にしていなければならない体で行軍しているのだから、当たり前だ。