幕末オオカミ 第三部 夢想散華編
「総司、水をくれるか」
「はい」
総司が竹筒を差し出すと、副長は袂から薬の入った袋を取り出して開けると、中身を水と共に口に流し込んだ。
「本当は熱燗で飲むのがいいんだがな」
「もしかして、土方散薬ですか?」
「ああ。銃創にでも効くだろ」
土方散薬?聞いたことないけど、有名な薬なのかな?
きょとんとしているあたしの顔を見て、狐の姿の平助くんがくすくすと笑った。
周囲の兵士に聞こえないよう、小声であたしに話しかける。
「土方さんの実家で作ってた薬だよ」
「そう言えば、昔は薬の行商をしてらしたんですよね」
「それそれ。打ち身、切り傷、何にでも効くって謳い文句でさ。でも、その効果のほどはたしかじゃな……」
「平助、斬ってやろうか」
副長が刀の鯉口を切ると、平助くんは口をつぐんだ。
あらら……効くのか効かないのか、微妙な薬なんだ。
そういえば昔父さんが、民間薬はそういう微妙なのが多いって言ってたな。
少し懐かしいような気持ちになったとき、背後の茂みががさりと音を立てた。