幕末オオカミ 第三部 夢想散華編
懐かしいにおいがした気がして、そっと目を開ける。
木の床。使い古された竹刀。防具にしみ込んだ汗のにおい……。
「えっ!?」
ばっと飛び起きる。
自分の体がやけに軽い気がして手を見てみれば、自分のものよりずっと小さい、子供の手が二つ視界に入った。
ぺたぺたと自分の顔や手を触ってみる。
それは痩せていたけど、自分とは違うみずみずしさと弾力を持っていた。
もしかして、俺は子供のときの夢を見ているのか?
そっと立ち上がる。
自分がいるのは、間違いなく試衛館道場だ。
目に入るものすべてが懐かしい。
ここで近藤先生に出会って、土方さんやみんなと寝食を共にして……。
人狼である自分を初めて受け入れてもらえ、免許皆伝という生涯の自信までもらった場所だ。
「総司」
背後から自分を呼ぶ声がして、思わず振り返る。
すると、近藤先生が笑顔でそこに立っていた。
さっきまで足音などしなかったのに。