幕末オオカミ 第三部 夢想散華編
俺はゆっくりと、体を起こす。
支えてくれていた木の根が、ぎしぎしと音を立てた。
「あれこれ考えるのはやめた。土方さんの元へ行く」
「うえっ?いきなり?」
「ああ、ごめんな。いつも迷惑かけて……。ついてきてくれるか?」
じっと見つめると、楓はぼーっとしていたような顔をした。
けど俺の言葉の意味がわかると、勢いよく首を縦に振った。
「うん!もちろん!」
尻尾を振る犬のように、赤く染めた頬で俺の腕にまとわりつく楓。
きっとずっと、会津にいる仲間たちのことが心配だったんだろう。
「そういう総司が好き。いじけてふて寝してる総司より、全然好き!」
ん……?
もしかして、誰より俺のことを心配してたのか?
「……やっべ」
「ん?」
「あーあ、なんか奇跡が起こって体治らねえかなあ……こんなんじゃ、なんもできねえ……」
押し倒すなら邪魔者がいない今だろうけど、無理するとうっかり死にそうだしな。
「??んー、そうね、体治るといいねえ」
こいつ、全然わかってねえ。
ま、いいか。
俺はそいうお前が、好きだから。
「ありがとな」
そっと抱きしめると、楓の体から花の香りがしたような気がした。
きっとこれは、夢の香りだ。
この花が俺のそばにある限り、俺は俺として生きていける。
生きていこう。