幕末オオカミ 第三部 夢想散華編
もののけたちがいなかったら、あたしは家茂公に連れ去られたまま、総司の元に帰ることはできなかっただろう。
そのあとも、銀月さんはあたしたちを何度も助けてくれた。
そのことを思うと、胸が痛い。
「将軍が戦う意思を示していれば、我々もののけ軍と新撰組の縁ももっと濃くなっていたでしょうに……これも時代の流れということでしょう。残念です」
銀月さんは腰に差していた刀を帯から抜くと、片手で総司に差し出した。
「餞別です。持って行ってください」
「いいのか?」
総司は刀を受け取ると、鯉口を切って刀身を少しだけ鞘から出した。
少しも刃こぼれしていない、新品の刀のように思える。
「それはあなたのお父上の刀です」
「え……」
「とはいえ、人間の姿になった時に格好をつけるために持っていたもので、ほとんど使っていませんが。
先代頭領の形見の中で、唯一あなたに遺すようにと言われていました」
そっか、もののけは戦うときも刀なんていらないもんね。
でも、なんで今になって?