幕末オオカミ 第三部 夢想散華編
「……すまねえ、楓。
お前を傷つけなければ生き延びられないなら、俺は生きる権利なんかないのかもしれない」
そう言ってあたしの瞳に映る総司は、もののけの頭領なんかじゃなく、ただの一人の若い男だった。
苦しげに眉根を寄せ、低い声が言葉をつむぐ。
「けど、まだ俺は生きなきゃならねえ。生きていたいんだ」
新撰組のために。自分自身の誇りのために。
「……血を、くれ」
吐き出すように、総司は喉からその一言を搾りだした。
傷つけたくないと言ってくれた。
松本先生に、幸せにすると頼まれて、うなずいてくれた。
わかってるよ。その気持ちに嘘がないことくらい。
だからそんなに、悲しそうな顔をしないで。
生きる権利がないなんて、言わないで。
「はい」
あたしの髪も手足も、全部総司のものだから。
どこからでも、持って行っていいんだよ。
静かに立ち上がり、両手を広げる。
そんなあたしを、同じように立ち上がった総司が抱き寄せる。
銀月さんが入ってきたときに、少しだけ空きっぱなしになっていた障子の隙間から、月光が差し込んだ。