幕末オオカミ 第三部 夢想散華編
「銀月……楓が危険だと思ったら、すぐに止めてくれ」
そう言い残すと、総司の黒い瞳の色が金色に塗り替えられた。
「まさか、まだ楓殿の血を飲んでいなかったのですか」
銀月さんの質問に答える前、総司は完全に狼化する直前、あたしの左手の内側に脇差ですっと薄い傷を付けた。
赤い滴が玉となって溢れ、筋を作っていく。
それを、耳や尻尾が生えた総司が、ゆっくりと舐めとった。
「そう……いい子だね。歯を立てちゃダメだよ」
漆黒の髪に指を差し込み、頭をなでる。
狼化した総司は、池田屋の凶暴な狼ではなく、忠実な犬のように、おとなしくあたしの言うことを聞いていた。
「……完全な狼のもののけとなっていただければ、このようなことをしなくて済みますものを」
銀月さんはあたしたちの様子を痛々しそうに見つめる。
「いいんだよ。総司が人間として生きるつもりなら……あたしは、それに協力するだけ」
「楓殿……」
「ごめんね、銀月さん。あなたは総司に完全な狼になってほしいだろうし、もののけどうしの強い血を持った子供を、たくさん残してほしいんだよね」
話しながら、総司に吸い取られる血の量が多くなるほど、頭がくらくらしてくる。
「でも……お願い。総司に限界が来たら、あたしももののけと同化してもいい。
だから今は……限界まで……人として……」
突然ぐにゃりと視界が歪んだ。
崩れた体が銀月さんに支えられ、総司の唇が離れていく感覚がする。
あたしはそのまま、遠くなっていく意識から切り離された。