幕末オオカミ 第三部 夢想散華編
鳥羽伏見の戦い
──慶応4年1月3日
「もうすぐ伏見が見えてきます」
あたしと総司を背中に乗せた銀月さんが言った。
本来の狼の姿となった銀月さんは馬よりもはるかに早く、風のように大阪から野を越え山を越え、伏見へと向かっていた。
総司に血を与えたあと、あたしは血が足りなくなって一時的に立ちくらみを起こしてしまった。
逆に体調が良くなった総司は、すぐに目が覚めたあたしに「大阪に残れ」と散々言っていたけど、あたしは拒否。
事情を話した近藤先生にも止められたけど、あたしはそれも振り切り、総司と一緒に行くことに決めた。
だって、総司の体は一時的に良くなったように見えるけど……戦で無理をしたら、また負担がかかって、弱ってしまうかもしれない。
そのときに助けられるのは、あたししかいないんだから。
冬の身を切るような寒さの中、体中に毛布を巻き付けたあたしは、そっと周りを見回す。
もうすぐ伏見って……ここはどこなの?
銀月さんのあまりの速さのため、景色は線になって飛んでゆくばかり。
そのとき、耳にドン、と大きな振動と共に轟音が響いた。
「今のは砲声か?」
「大阪の方からこちらに向かっている旧幕府軍と敵が衝突したようですね。ちなみに、ここは鳥羽です」
総司の質問に、銀月さんは緊張した声で答える。
もう、両軍の衝突が始まってしまった……!
鳥羽の砲声は、もちろん伏見にも届いているだろう。
今の音を合図に、あちらでも戦いが始まってしまうはず。
「急ごう!」
総司が言うと、銀月さんはさらに速度を上げた。