幕末オオカミ 第三部 夢想散華編
伏見奉行所に近づくにつれ、銃声や砲声が絶え間なく聞こえてくるようになった。
「やっぱり……!」
こっちでも、戦闘が始まってしまっている。
木や屋根の上を渡って奉行所に近づく銀月さんの背中から見えたのは、明らかに劣勢な味方の姿だった。
「2番隊、いけええええっ!」
奉行所から近くの高台にある御香宮に向かい、永倉さんたちの二番隊が刀を手に駆けて行くのが見えた。
しかし、立ちふさがる薩長軍は洋装に鉄砲を持ち、容赦なく味方にその弾丸を放つ。
何人かがその弾を受け、血煙の中に倒れてしまった。
「くそっ!」
永倉先生は人の目もはばからず、その白刃に炎をまとって斬り込む。
けれど、弾丸の雨を避けるのに精いっぱいで、敵になかなか近づけない。
一対一の剣の勝負なら絶対に負けない相手でも、近づけなければどうしようもない。
「永倉先生……!」
「とにかく、土方殿のところに急ぎましょう」
銀月さんが突然動くので、あたしは後ろ髪を引かれる思いで、その灰色の毛にしがみついた。