幕末オオカミ 第三部 夢想散華編
「ぁ……っ」
思わずまぶたを閉じる。
そこを透けてくる光が、だんだんと小さくなっていくのを感じた。
おそるおそる目を開ける。
「そう、じ……?」
眩しさにやられていた目が、だんだんと普段の景色を取り戻す。
やがて認識できたのは、こと切れた総司の体、そして……。
「……っはぁ、あ……!」
呼吸を取り戻した、土方さんの体。
いつの間にか斉藤先生の真言も止まっていて、あたしたちは黙って彼を見つめていた。
横たわったまま、彼は、ゆっくりとまぶたを開く。
そして、ゆっくりと自分の手を顔の前にかざすと、土方さんの声で言った。
「ああ……土方さんの、手だ……」
「総司?総司なんだね?」
彼はこくりとうなずくと、こぶしをにぎりしめ、それで目元を覆った。
同化が成功したんだ。
ホッと胸をなでおろす斉藤先生と、平助くん。
あたしはなんと言っていいかわからず、しばらく二人の手をにぎったままでいた。
総司の魂が入った土方さんの体は、小さく震えていた。
涙を流しているのだと思うと、よけいにその手を離せなかった。
慶応4年、5月30日。
──新撰組一番隊隊長・沖田総司、没。
彼はこの日から、『土方歳三』として生きていくしか、なくなってしまったのだった。