幕末オオカミ 第三部 夢想散華編
「昨日、一晩傍にいてくれただろ。それでじゅうぶんだ」
本人はあっさり言うと、部屋の中に戻っていく。
うーん、すごい。
もともと話し方や仕草が似ているなあとは思っていたけど、あの体になってもあんまり違和感がない。
「あの……いきなりしゃきしゃき動いてるけど、大丈夫なの?」
総司は部屋に入ると、突然土方さんの遺品を整理し始めた。
土方さんの形見の和泉守兼定を抜き、目釘を確かめる。
「ああ。怪我の方はだいぶ良くなってたんだな、土方さん。
そろそろ動けそうだから、斉藤を追っていこうと思って」
「それは……ええと、『土方歳三』として?」
「そりゃあそうだろ。この見た目で『俺が沖田総司だ』って言ったって、誰も信用しねえよ」
まあ……そうでしょうね。
昔から新撰組隊士だった人はもちろん、新入隊士を募るのはだいたい土方さんの役目だったから、彼の名と顔は知れ渡っているだろう。
「でも、もう少し……その体に慣れるまで、ここにいた方がいいんじゃない?」
座って背を向けていた総司の肩に、ぽんと手を置く。
すると、体全体がぴくりと震えた。
まるで、危険を感じた小動物みたいに。