幕末オオカミ 第三部 夢想散華編


「いや……。じっとしていると、気が狂っちまいそうだから。
大丈夫、ずっと近くで見続けた人の演技くらい、なんとかやれるさ」


ここで小姓みたいな仕事をしていたときに、それまで土方さんしか会ったことのなかった大鳥さんや、いろんな人に会った総司。


その記憶があれば、なんとかなる……のか?


「無理しないで。土方さんが言ってたじゃない。
新撰組を背負ったりしないで、好きに生きればいいって」


ここで行方をくらませて、残りの人生を静かに生きる選択だってできるはずだ。


そっと、少し小さくなった背中に寄り添うと、総司は肩に置いたあたしの手に、自らの手を重ねた。


「んなこと、できねえよ……。
あの人たちの夢を、俺は継いだんだ」


「夢……」


「俺たちは誠の武士を目指して、ここまでやってきた。

ここでその道を捨てるのは、俺の武士道に反する。

徳川のためじゃねえ。俺は、俺の誠義のために戦うことを決めた」



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