幕末オオカミ 第三部 夢想散華編
「ごめんね。せっかく平和に暮らしていたのに……」
ふと顔を上げると、ドアの向こうから小さな顔がこちらを見ていた。
まだ幼い子供だ。
「こら、まだ仕事中だからあっちにいってな」
「でも母ちゃん、しっこ出そう~……」
「自分で行けよ!男だろ!」
槐はそう言うと、ドアの方へ走っていく。
やがて戻ってきた男の子は、すっきりした顔をしていた。
その顔は槐そっくりだけど、頬だけは似ていなくてふっくらとしている。
「か、可愛い!この子、あのときお腹にいた子?」
「そうだよ」
最後に会ったのが伊東一派が離隊しようとしていたときだから、およそ2年と少し前。
だから今は2歳くらいか。
「はじめまして、楓です」
かがんで手を差し出すと、槐の息子は恥ずかしそうに後ろに隠れてしまった。
「あらら」
槐の後ろから顔を出したと思うと、にへっと笑ってまた隠れてしまう。