幕末オオカミ 第三部 夢想散華編
「山田湾で他の2隻を待とう」
回天艦長の甲賀源吾さんの言う通り、あたしたちはしばらく他の2隻を待つことにした。
もう……昔からわかってたけど、武士ってやつはつくづくバカだ。
こんなのやめて、さっさと帰って、他の手を考えるべきだよ。
船室へ戻ろうとした瞬間、一際大きく船が揺れた。
「きゃっ」
転びそうになってとっさに船のへりに手をつき、持っていたランプが波に放り出される。
黒い波の中に、橙色の灯りが飲み込まれていく。そのとき。
「あ……?」
あたしは波の中に目をこらす。
今さっき、ランプを飲み込んだ波の中に、何かがいたような……。
大きな魚か?
「楓、中に入れ」
「あ、総司。今ね……」
──ざぶん!
大きな波の音がしたと思ったら、背後で海水が跳ねあがっていた。
あっと思う間もなく、あたしの上から滝のように、水が落ちてくる。