幕末オオカミ 第三部 夢想散華編
当然守備隊を配置していたけれど、新政府軍は夜のうちにひっそりと山の裏側から山頂へと近づいていたみたい。
急襲された守備隊は、弁天台場に退却し、そこにいる兵と合流したらしいと大鳥さんが報告した。
「……函館山は新撰組の持ち場だったな」
総司がぼそりと言った。
たしかに、函館山は新撰組の半小隊が守備していた。
ちなみに総司……土方陸軍奉行並は函館市中の取り締まり役など色々な仕事があり、新撰組の局長としてだけ動くことができなくて、組は他の人に預けられていた。
けれど。
「あそこを取られたのは、局長である俺の罪だ」
総司はそう言い、榎本総裁の方を見つめる。
「敗走兵は弁天台場へ向かったと言ったな」
弁天台場には、新撰組の本隊がいる。
「ああ」
「では、俺は弁天台場へ向かう」
「しかし、あそこはもう……」
函館山からの総攻撃を受け、その向こうの岬にある弁天台場は孤立してしまっている。
たどり着くだけでも、容易ではないだろう。
幹部の中に、諦念が漂っていた。