幕末オオカミ 第三部 夢想散華編
「見捨てるわけにはいかない。あそこには、京の時代から一緒に戦ってきた同志たちがいるんだ。行かせてくれ、榎本さん。きっと台場を守ってみせる」
必死に説得する総司に、とうとう榎本さんは首を縦にふった。
「きっと戻ってきてくれ。わが軍に、きみはなくてはならない人だ……土方くん」
総司は何も言わず、一礼して五稜郭を後にした。
「お供させてください土方先生!」
話を聞きつけた50名ほどの小隊が、総司のあとに続いた。
その中には、ずっと総司についてきていた新撰組隊士もいた。
総司は専用の栗毛の馬にあたしを乗せ、自らもそれに跨る。
「今より我らは、弁天台場にいる同志の救出に向かう!」
おう、と返事が返ってきた途端、総司が手綱を操る。複数の蹄が地を蹴った。
馬の背で揺られるのは初めてではないけど、身重のあたしはびくびくしながら、ぎゅっと総司の体に抱きつく。
五稜郭の外に出て、海岸沿いの道を馬で駆け抜けていると、激しい銃撃の音が聞こえてきた。
函館山だけでなく、あちこちから新政府軍が攻めてきたのだろう。