幕末オオカミ 第三部 夢想散華編
涙をぬぐうと、総司の全身が光に包まれている。
まるで、光の繭だ。
「総司……」
その繭に指先で触れる。
すると繭が細い糸の束となり、ゆるりとほどけていった。
そこに現れたのは……。
「あ……っ!」
黒い髪。切れ長の瞳。高い鼻に、厚い唇。
浅黒い肌。洋装の袖からはみ出た、長い長い手足。
「そんな」
見間違えるはずがない。
そこに横たわっているのは、『沖田総司』の体だった。
その顔はとても安らかで、戦の苦しみはどこにも感じさせない。
「総司……」
もう、痛くないね。苦しくないね。
「お帰り」
あたしはそっと、総司の体を抱きしめた。
この7日後、五稜郭政府は新政府軍に降伏。
長かった戦が集結し、蝦夷に出現した幻の理想郷は、あっけなくその姿を消すことになった。
儚く散った、あたしたちの夢を連れて──。