幕末オオカミ 第三部 夢想散華編
最後の狼
──明治2年6月。
「うげええええ……」
船に揺られて、あたしは盛大な吐き気に襲われていた。
夏の日差しが容赦なく全身を焼く。
「つらぁぁぁ……」
新撰組の隊務も、戊辰戦争も相当辛かったけど、船酔いしてるとそれすらいい思い出に思えてくる。
身重のあたしにとって、この船旅はやっぱり無謀だったかも……。
「大丈夫か」
背後から低い声がかけられた。
振り返ると、そこには……。
切れ長の瞳の、美丈夫が立っていた。
日に焼けて、浅黒い肌がますます黒くなっている。
「総司」
「横になってた方がいいんじゃねえのか?」
風に吹かれたいと思ったけれど、こう暑くちゃどうしようもない。
「槐がロシアは寒いところだって言ってたもん……」
「あのなあ。まだ蝦夷を出て一刻しか経ってねえんだぞ……」