幕末オオカミ 第三部 夢想散華編
斉藤先生は総司と言いあう気はないらしく、さらりとかわす。
言われてみれば、部屋の中が暗い。日が沈みかけているみたいだ。
「ろうそく点けなきゃね」
火打石を取りだそうとした、そのとき……。
「大変だーっ!局長が……!」
屯所の入口の方から、そう叫ぶ緊迫した声が聞こえてきた。
何事かと、総司と斉藤先生が立ち上がる。
「どうした?」
三人で部屋を出ると、ちょうど山崎監察と鉢合わせた。
「どいてんか!さ、はよう、奥の部屋へ!」
監察は珍しく緊迫した顔で怒鳴る。
あとからバタバタとついてきた隊士たちに、戸板に乗せて運ばれていくのは……。
「なっ……」
「近藤先生!?」
右肩からおびただしい血を流した、近藤局長だった。
「何があった?」
斉藤先生が、局長が運ばれたあとに走っていく隊士を捕まえて聞いた。
「局長が……墨染あたりで、鉄砲で撃たれました。顔を見ましたが、あれはたぶん御陵衛士の残党だと」
それだけ言うと、慌ただしく局長の元へと走っていってしまった。
「ウソ……」
御陵衛士の残党に、近藤先生が……。
先ほどの出血を思い出すと、ぶるりと背筋が震える。
右肩を鉄砲で撃たれたなんて……じゃあ、もういつも通りの剣はふるえないの……?
思わず総司の手をにぎる。
見上げた横顔は、呆然と局長の運ばれた方だけを見つめていた。