幕末オオカミ 第三部 夢想散華編
諦められない者たち
「き~も~ぢ~わ~る~い~」
足元が頼りなくふらふらと揺れる。
あたしは初めての船旅1日目にして、既にくじけそうになっていた。
強烈なめまいと吐き気。
そして疲労感が、全身を気だるく包み込んでいた。
6日、大阪へと退却した旧幕府軍に待っていたのは、驚くべき悲報だった。
なんと、大阪城にいた将軍慶喜公が、少しのお供を連れ、天保山沖からさっさと江戸へと帰ってしまったというで
はないか。
「総大将が、俺たちを見捨てて逃げただと……!?」
疲労の色がますます濃くなった副長の悲痛に歪んだ顔は、今まで見たことのないくらい痛々しかった。
そうして新撰組は、慶喜公の乗った軍艦・開陽丸を追い、大阪を経ち江戸へと向かうことになった。
合流した局長や、負傷者は富士山艦に、副長や動ける隊士は順動丸に搭乗し、相次いで出航した。
というわけで、総司とあたしは局長や負傷者の護衛のため、富士山艦の方に乗っている。