幕末オオカミ 第三部 夢想散華編
夜が更けてからやっと、幹部たちは副長の部屋に集められた。
局長の傷から弾丸を取り出し、縫合したのは山崎監察。
あとから来た医者と一緒に、今は別室で様子を見ている。
「いったい何があったんですか?」
総司が乗り出して聞くと、土方副長が重い口を開く。
「二条城から伏見街道を通り、こちらに帰って来る途中……墨染め辺りで、御陵衛士の残党に狙撃された。弾を受けたのは、右肩と胸の間だ」
副長の詳しい説明を聞くと、だいたいこんなことだった。
馬に乗り、4人のお供を連れて帰路についた近藤局長は、空き家の中から突然狙撃された。
局長は深手を負ったにも関わらず、馬から落ちずに手綱をにぎる。
空き家から出てきて、刀を持って局長に襲いかかった御陵衛士と、お供の隊士が衝突。
局長はそのまま、落馬せずになんとか屯所まで馬を走らせてきたという。
「肩って……大丈夫なのか?」
「今夜が峠だそうだ。まあ、あの人の生命力ならなんとか持ちこたえてくれるだろう」
副長の声は、局長が持ちこたえてくれることを確信していると言うよりは、期待しているように聞こえた。
質問した永倉先生は、ちっと舌打ちする。
「そうじゃなくて!持ちこたえたとして、剣はまた握れるようになるのかよ?
いよいよ戦が始まろうってこのときに、なんで……!」
彼の苛立ちをぶつけるように、大きな拳が畳に打ち付けられる。
「新八、そんなことは医者にだってわかりゃしないさ」
原田先生が、なんとかなだめようとする。