幕末オオカミ 第三部 夢想散華編
「小娘の言う通りだ」
低い声とともにさっと襖が空いて、文句たらたらだった二人がぎくりと背を伸ばす。
そこに立っていたのは見知らぬ人。
漆のように黒い髪は首筋で短く切られていて、白い立襟のシャツの上に小さなボタンがたくさんついた黒い袖のない上着と、同じ色のズボンを着ている。
「ひ、土方さん?」
「どうしたんだそのかっこう?」
永倉先生たちが目を丸くして彼を指さす。
って……副長!?
見慣れない洋服ばかりにに視線を奪われていたけれど、その顔をよくよく見れば、たしかに副長だ。
「これからの戦では、速さがものを言うだろう。
だから、軽装にしたまでだ」
副長がそう言うと、後ろから大きな箱を抱えた斉藤先生がやってきた。
彼も金魚の尾のようだった後ろ髪を切り、副長と同じような格好をしている。
「至急用意したものだから、体に合うかどうかはわからんが、順番に持って行って着替えてください。
楓、他の隊士たちにも配ることになっているから、手伝ってくれないか」
「は、はい」
そっか、鳥羽伏見では洋装で銃を持った敵軍にボロボロにされたもんね……鎧や袴じゃ、これからの戦も速さの点で不利だと副長は判断したんだ。