影光 ーmoonlightー
「先輩」






「…」






「どうしてここにいるんですか」








最初に見つけたのは梶山くんだった。





私は体育座りで下を向いているから



梶山くんの顔が見えない。





もう、大事なものを失いたくなかった。




音も


目も


家族も





全部大事にしてたのに。





もう、手には戻らなくなっている。







女手一つで育ててもらっている母には






私の目を治す余裕なんてない。





お金はあっても、それは受験の時に使う。






父も死んだ。





祖父母もいない。





兄は失踪して



親戚もいない。






もう、心の拠りどころがなくなってしまう気がして。





生きる意味がなくなってしまう気がして。






足元を地道に、惨めに這っている蟻を



じーっと見つめた。
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