暴走族に愛された不登校女子。
いつになく、直樹の声が低くなった。
心臓の音が一定のままゆっくりと伝わってくる。
「…杏。何で家出したんだ?」
驚いて振り返ろうとした。だけど抱きしめられたままで動けなかった。
「……お母さんと2人で暮らしてた。だけどあたしを邪魔者扱いするからだよ…」
思わず俯くと、直樹の抱きしめる力が強くなった。
「変なコト聞いて悪かった」
それきり直樹は黙り込んだ。
「直樹はどうして暴走族になろうと思ったの?」
逆にこっちから聞くと、直樹も考えるように頷いた。
時間が過ぎる中ようやく直樹の口が開いた。
「…俺の居場所だと思ったからだ」
「居場所…??」
「お前の居場所なら俺のところにある。何も不安になることなんてねぇーよ。
今日はもう帰ろうぜ」
「うん…そうだね」
自分の居場所を作ってくれる人なんて、初めて出会った。
それが嬉しい反面で疑いたくもなった。