暴走族に愛された不登校女子。
「おい…杏。話があんだけど」
「あたしはない。何度言えばわかってくれるの? 学校では…」
「お前の方が分かってないだろ!」
びくっと一瞬、肩が震えた。
それを蒼太が見て、悲しい表情を浮かべていた。
「ごめん…、でも…」
「蒼太ぁー…、そんな子に構うのやめようよぉ」
彼女、塚一 小呉(ツカイチコグレ)が近づいてきた。
あたしは相変わらずノートを手に持ったままだ。
「わかってるけど…、杏。放課後俺のところに来いよ」
蒼太が傍から離れると小呉が耳打ちをした。
「行ったら許さないんだから」
「行く気なんてさらさらないし」
冷たく言えば、彼女の怒りが増しただけだった。
小呉が立ち去るとあたしは自由になって、胸を撫で下ろした。
教科書を机に入れ終えると、ふと思い出す。
そうだ。
今日は席替えの日だった。
静かな人で窓側がいいな、と願った。