暴走族に愛された不登校女子。
蒼太の気配を感じながら、振り返らずに俯いた。
「…何で避けるのか教えて欲しい」
「あたしはもう“いい子”じゃないから」
「…は?」
「“いい子”にただ、蒼太の後ろに隠れる。そんな昔とは違うの。感謝はしているよ? だけどもう迷惑をかけたくないの。
気持ちが分かるなら、話しかけないで」
「…杏」
電車に乗り込んで、隅の方に立つ。
着信が鳴ったのを聞いて、あたしはメールを開いた。
『大丈夫か? 何かあれば言えよな』
優しい言葉に頬が緩んだ。
『ありがとう。大丈夫だよ』
そう返して、携帯を閉じる。
蒼太の切ない表情は今でも頭の中に残っていた。
彼が辛い思いをしているのは、あたしには痛いほど分かっている。
だって蒼太はお兄さんのような存在だったから。